「マネジメントの世紀」をこえて(新井康平)

「マネジメントの世紀」をこえて(新井康平)
「マネジメントの世紀」をこえて(新井康平)
CUBE DIARY

「マネジメントの世紀」をこえて(新井康平)

2009.03.24

一ヶ月ぶりです。CUBE始動までカウントダウン,文字通り秒読みになってまいりまして,テンションも否が応でも上昇中であります,会計学担当新井康平です。

さて,CUBEの学部は,「マネジメント」の名前を冠したものであります。今回は,この「マネジメント」について考えてみましょう。ただ漫然とマネジメントの話をするのは大変ですので,ここでは「マネジメントの世紀」という書籍をもとにお話を。
CUBEの講義などでは繰り返し本を読むことの効用を主張しているのですが,僕自身の人生に大きな影響を与えた本がこの「マネジメントの世紀」という本です。この本では,歴史的な視点から,マネジメントとは何なのかを議論しており,また,日本企業のマネジメントの特性についても言及されている実践家向けの良書です。学部生時代に読んだ時は,マネジメントの本質に近づけた気がして感動したものを覚えています。

では,この本が主張するマネジメントとは?マネジメントの本質については,各自読んでもらうとして,ここではCUBEの教育につながる点を強調しておきましょう。

重要なのポイントとして,19世紀が産業化の時代であったなら20世紀はマネジメントの時代であったという主張があることです。産業革命以降,我々人間は,工業化された経済を発展させ,物質的な豊かさを獲得してきました。しかし,20世紀に入ってからは,このような産業化に対応して,技術や組織を管理可能にするために,様々なマネジメントの考え方が出現します。
例えば,Taylorの科学的管理法。19世紀末から20世紀初頭にかけて出現した,従業員と経営者の双方が幸せであれと願う管理方法の出現は,多くの人々に経営学の出発点だと理解されています。これは,科学的に定められた動作や時間を「標準」として設定することによって,組織成員を管理するための一連の方法です。現在の多くの生産現場においてすら,およそこの「標準」という考え方の重要性は生き続けています。
あるいは,マネジメントにおける人間の発見。組織は公式的というよりは非公式的な人間関係の束なのかもしれません。規模,年数,実験に参加した人数ともに人類史上最大の実験といってもいいかもしれないホーソン実験。人間が人間としての扱われることの意味を,これら一連の実験がみつけだしたことにより,マネジメントは無味乾燥なストップウォッチによる管理とともに,急に人間らしい側面をみせてくれます。
このように,20世紀は,人類史上初めて,企業や自治体,NPOやNGOといった様々な組織を管理することが,研究され,体系化され,教育されるようになってきた時代です。結局,多くの研究が明らかにしたことは,唯一絶対のマネジメントの方法なんて存在しない,ということなのかもしれません。

この,唯一絶対の最高のマネジメントの方法が存在しない,ということを理解することはとても重要です。会社の経営が得意な人が,かならずしも自治体の運営には向いていない,といったことは良くあるかもしれません。常に特定の有能な個人がリーダーシップを発揮することによってまとまってきた組織では,その人がいなくなったとたんに組織が機能しなくなるかもしれません。・・・などなど,いろいろ複雑ですよね。このように,マネジメントに関する多くの問題は単一の解を持っていないため,少なくとも経営学さえ勉強しておけばどうにかなる,というほど単純なものでもないことが明らかとなってきました。

じゃあ,マネジメントっていうものを勉強することはできないのでしょうか。必ずしも,そうではないと考えます。一つは,答えを覚えるのではなく,答えを見つけるための能力を訓練すること。これは,経済学や経営学に限らず,教養科目やリテラシー教育を通じて,CUBEではこの基礎的な能力を鍛えます。なにより,プロジェクト型教育を志向するCUBEは,学生の間に物事の本質を脳に汗をかくほど考え抜く訓練の場として最適となるでしょう。もう一つは,批判的になること。マネジメントとは,問題を発見して,その問題を解決するための方策を組織化することでもあります。そうすると,常に物事を批判的にみる視点は,問題を発見するということからもマネジメントの出発点として重要になります。CUBEが提供する少人数教育では,議論をする機会が非常に多いと想定されます。相手の意見を聞き,それに対して自分の意見を言うという,シンプルな議論の場すら,これまでの皆さんにはなかったかもしれません。でも,このような議論を通じて,ものごとを批判的にみる視点を養うことが出来れば,マネジメントの能力の基本は身につけることが出来るのではないでしょうか。

とはいっても,医学や法学,数学といった科目が千年単位の教育の歴史を持っているのに対して,マネジメントはたかだか100年です。ただ,どうやら,学問として経営学や経済学を勉強しただけでは,このマネジメントというものを理解できたとは言えないようだ,という共通の理解のもと,CUBEは新しいカリキュラムを展開していくと考えています。もちろん,そのためには,学生の皆さんの意見が必要です。教員に対して,学生自身の意見を主張が出来るようにさえなれば,我々の教育は成功したといってもいいのではないでしょうか。というのも,例え教員に対してでも,その主張が間違っていると思えば,自分や同期,後輩のために間違っていると主張できる姿勢こそが,マネジメント,というものの本質だと思うからです。

とまあ,なかなか乱文ですが,まとめると,

1. マネジメントが教育され始めて,まだまだ100年しかたっていない

2. マネジメントを理解するためには,経済学や経営学だけではなく,幅広い教養が重要

3. CUBEはこれらに対応するために新しい教育を展開する予定だが,学生からの協力や意見が不可欠

ということになるでしょう。「マネジメントの世紀」といわれた20世紀をこえて,この21世紀に,新しいマネジメント教育の場を創造できて,そこにかかわれることが楽しくてしょうがありません。さらには,4月から皆さんと一緒に勉強が出来ることが,こんなにも楽しみだとは思ってもいませんでした。是非,期待してCUBEに来てください。我々も,それ以上の大きな期待を持って,皆さんを待っています。

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